日本のことばと文化 初級1 A2 MARUGOTO Plus

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弁当箱専門店代表 ベルトラン トマさん

日本から世界へ

お弁当は日本を代表する食文化の一つ。
そんな日本の文化を世界に広めたいと考えているフランス人がいます。

小さな箱の蓋をあけると、彩りよくアレンジされたご馳走がとびだす。魚・肉・野菜・卵・・などの料理が仕切りの技によってお互いを邪魔することなく小さな空間を分け合っている。お花見弁当、お母さんの弁当、愛妻弁当、駅弁、それにマイ弁当など。前菜、主菜、ときにはデザートまで入り、携行できるフルコースともいえるお弁当は日本特有の食文化だろう。

おなじみの弁当箱が、今進化している。弁当がインターネットを通して世界に紹介され、愛好者を増やし、別の食文化の中で新しいアイディアを得て発展する。その発想により、日本の弁当箱も製造メーカーを巻き込んで進化しているのだ。

伝統からモダンまで
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和風の弁当箱

仕掛け人は京都に住むフランス出身の起業家、ベルトラン トマさんだ。株式会社BERTRANDおよび弁当箱専門店「Bento & co」の代表である。「Bento & co」は、京都中心地の商業地区、寺町通りのすぐ近くにある。弁当箱専門店というだけあって、品揃えは実に豊富だ。曲げわっぱや会津塗の伝統工芸品にはじまり、蓋に保冷剤を内蔵した優れもの、舞妓や忍者を模った人気ナンバーワンのこけし弁当箱、和柄の布を蓋にあしらった海外で人気の弁当箱、弁当箱には見えないスタイリッシュな3段重ねのスリム弁当箱、どれもカラフルでデザイン性に優れたものぞろいである。フランス生まれの弁当箱もある。フランスの弁当ファンがデザインしたもので、内ブタで密閉し水分が漏れ出さない。蓋にピッタリ収まるおしゃれなフォーク、スプーンなどのアクセサリーもついている。「3段重ねの弁当箱など、今までデパートでも売れなかった弁当箱が、うちではよく売れるのですよ。店頭で説明するのが受けているようです」とベルトランさん。

住みやすくて、おいしい

フランス人のベルトランさんと弁当箱、この結びつきは何とも意外だ。どんな経緯があったのだろう。ベルトランさんが日本にやって来たのは2003年のこと。フランスの出身大学と交流のあった京都大学に留学生として1年間滞在した。「もっと京都のことを知りたい、もっと日本語が上手になりたいと思いました」。再び京都を訪れたベルトランさんは、「La rivière aux canards / 鴨川」というタイトルのブログを立ち上げ、美しいもの、面白いもの、おいしいもの、すてきなものなど、様々な京都の魅力をフランス語で発信しだした。

京都のどんなところに惹かれたのだろうか。「住みやすいことですね。都会でありながら、緑が多く、山も近い、川が町中を流れ憩いの場を提供しています。鴨川が特にいいですね。それに、個性的なカフェやレストランが多くて、おいしいものがたくさんある」。「若者や外国人も多く住んでいて国際都市の雰囲気があります」。ベルトランさんは京都の魅力についてこのように語る。

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モダンな弁当箱

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京都は「おいしい」

ブログの読者はどんどんと増えていき、1日に600~800人もがアクセスするようになった。「彼らは、当然、日本や京都にすごく興味を持っているのです。何かビジネスにつながるかもしれないと考えました」。そんな時に、フランスの雑誌でお弁当の特集が出たという情報を耳にした。「コレだと思いました」。食事に手間暇をかけて楽しむ文化のあるフランスのこと、日本のお弁当が受け入れられるとベルトランさんは確信した。その後の彼の行動は素早かった。2008年にフランス向けのネットショップを開いて日本の弁当箱を販売し好評を得た。2010年には英語のサイト、2011年には日本語のサイトもオープン、世界70か国から注文が来るようになった。そして、2012年には京都の中心地に弁当箱専門店まで開いてしまったというわけである。「すべては京都のおかげです」とベルトランさんは微笑んだ。

料理を美しく箱詰めに

弁当の魅力についてベルトランさんは次のように語る。「いろいろな味の好きな料理を作り、葉っぱやバランなどで仕切って美しく箱詰めにして持ち歩くことができることですね。おいしいものを美しくというのは、フランスの食文化でも大切にされていることです。私も週一回は自分のお弁当を作りますよ」。「今、フランスなどヨーロッパでは女性も男性も自分で作った料理をきれいに弁当箱に詰めるBento文化を楽しんでいるのです。以前は、サラダなど1種類の料理を保存容器に入れて運ぶことはありましたが、1回分の食事を全てきれいに詰めるというのは、全く新しい発想です」。「一方、アメリカや北ヨーロッパでは、子供においしくてヘルシーな昼食を食べさせたいと考えるお母さんが増えています。スローフードが見直されているのです」。

日本から世界へ、そして世界から日本へ

京都から世界に日本の食文化、弁当を発信し続ける「Bento & co」が2008年から取り組んでいるのが、お弁当コンクールだという。自慢の弁当の写真を募って優勝者を決めるものだ。5年目にあたる今年は32カ国から340枚の応募写真が届いた。「最優秀お弁当はお花見の場面がモチーフで、食べるのが惜しいほどきれいな作品でした」。優勝者は応募3度目のフランス人男性とか。

「Bento & co」が今、準備しているのは、世界のお弁当を日本に紹介するブログだという。日本発のお弁当文化が、ブーメランのように世界中から装いを変えて戻ってくる。「Bento & co」が発信拠点になって、世界のお弁当の輪が広がっていく。「弁当箱の販売を通して世界の人たちの食生活を楽しく健康的に変えていけたらうれしいですね」。おいしいものを愛するベルトランさんならではの起業だったのだ。

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